旺盛な出店を見込む外食産業が、店舗運営の主力となるアルバイトの人手不足に直面している。コンビニエンスストアやショッピングセンター(SC)が出店攻勢を強める中、アルバイト人材の奪い合いが起き、平均時給は上昇の一途をたどる状況だ。各社は、手元の人材の有効活用や、働きやすい職場環境づくりを急いでいる。
 オフィスビルに近い、スターバックスコーヒー(スタバ)の南青山2丁目店(東京都港区)の岩本剛店長は最近、欠員の出ていたアルバイトを一気に3人採用した。急な欠員が生じた場合、カバー要因の確保は簡単ではなかったが、スターバックス コーヒー ジャパンが大手人材会社と共同で作り上げた人材登録システムの活用が奏功した。
 アルバイト先として人気の高いスタバとはいえ、採用に至るまでには面接をはじめ、一定のプロセスが必要となる。最近では外食全体のアルバイト不足もあり、「地域によっては募集に対して、条件がぴったり合う人が少ないケースが増えてきた」(同社人事部)という。
 システムの登録者には、過去にスタバでのアルバイト経験を持つ人材も含まれ、勤務シフトの条件が合えば、即戦力ばかりだ。南青山2丁目店で採用された元会社員の女性(27)は学生時代、スタバで2年間のアルバイト経験があった。 女性は「登録してすぐに連絡が来た。経験者にはよいシステムではないか」と話す。岩本店長も「人が足りなくても、店は営業しなくてはいけない。サービスに支障が出るところだったので、加入はありがたかった」と胸をなで下ろしていた。
 人材会社インテリジェンスの提供するアルバイト求人情報サービス「an」によると、外食産業をはじめとする「フード系」アルバイトの求人数は3年以上前年比プラスが続き、4月は前年比40.3%増の大幅プラスとなった。フリーペーパーには、レストランやラーメン店からの求人が絶えない。
 背景にあるのは、外食の出店数の増加だ。日本フードサービス協会によると、全国の飲食店舗数は4月まで22カ月連続の前年同月比プラス。今年70施設以上がオープンする計画のSCにも、外食テナントが多く入る。
食の安全・安心財団が14日発表した2012年の国内外食産業の市場規模は前年比1.5%増の23兆2386億円となり、5年ぶりに前年を上回った。一昨年3月の東日本大震災の反動で1世帯当たりの外食費支出が増えた結果、拡大に転じたためとみられている。インテリジェンスが合同面接会を企画したSCでは、例年以上にテナントの参加率が高く、担当者は「業界の危機感を感じた」という。
 小売りとの競合も激しい。コンビニ大手3社は12年度に国内で計約3200店を出店し、13年度も計約3900店を計画する。立地の面でコンビニより不利な条件が多い外食は、時給を上げるといった動きで対抗策を強いられ、4月のフード系アルバイトの時給は16カ月連続でプラス(「an」調べ)となった。
 アルバイト人材獲得に向け、外食各社はあの手この手で知恵を絞っている。カフェレストラン「ダッキーダック」を展開する東和フードサービスは、アルバイトの欠員に備え、ヘルプ専門の要員7人を採用。即戦力として現場に送り出せるよう研修に取り組んでいる。牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングスも、店舗間でのアルバイト人員の融通に余念がない。一方、人手不足の一因ともなっている早期離職対策として取り組んでいるのが、職場環境の整備だ。
 ファミリーレストラン大手のすかいらーくは昨年秋から、採用したアルバイトに最初の3日間、オリエンテーションと業務に関する座学研修を1日当たり計50分~1時間実施している。チームのコミュニケーションを円滑にするだけでなく、働き始めにありがちなミスの防止効果も狙っている。
 同社の社内調査によると、3カ月以内の短期間で辞めるアルバイトのうち、大半が実働20時間以内での離職だったが、取り組み実施後は20時間以内の離職が大幅に減った。「アルバイトのサービス意識が向上した」(都内の店長)、「早くから職場の仲間に入れるという安心感がある」(36歳の男性アルバイト)など、現場からも好評を得ている。
 景気にようやく明るさが戻りつつある中、事業拡大に向けた出店を加速する外食産業。人手不足は出店戦略のアキレス腱になる可能性もある。その解決策は今後の成長の鍵を握りそうだ。