ワタミがこれまでの方針を変え、出店増加を決断した。来年までに6県の未進出県に出店をし、全国制覇が完了する見込みだ。同社は東日本大震災以降、一度は、新規出店を抑えると発表していた。翻意の裏側には何があったのか。
 ワタミでは「炭火焼だいにんぐ わたみん家」などのブランドの出店はあったが、同社の看板ブランドである「居食屋 和民」はこの2年間出店をとりやめていた。
 それでも3月11日の東日本大震災が起る前までは、「和民」の山形県と富山県への出店を予定していた。両県ともにこれまでワタミのどのブランドも出店していなかった地域だ。ところが、東日本大震災が発生し、居酒屋業態は大打撃を受ける。2011年3月の居酒屋業態の売上は前年比で約20%も減少した。
 発生直後は、強い自粛モードが漂い、夏場の計画停電の可能性も指摘されていた。そうした状況を受け、5月にワタミは2012年3月期に予定していた新規出店を50から8へと一気に下方修正した。さらに、その後、出店計画が維持された8店舗に含まれる山形県と富山県への出店すら、とりやめが議論されたという。
 しかし、7月に山形県の店が無事オープンすると、潮目が変わった。山形店の売上がオープン当初から、予想の200%を超えたのだ。8月に出店した富山県でも、同様のレベルを記録。オープンから3~4ヵ月経っているが、両店ともにその水準を維持しているという。「今まで進出していなかった県で、これほどまで強い需要があるとは思わなかった」(山添崇範・ワタミフードサービス店舗開発本部本部長)。
 そこで、一気に、未進出県への出店へと舵を切り始めた。12月には沖縄で初めての店を開くことが決まっており、さらに、「2015年までには、沖縄県内に5店舗ほど展開したい」とも明かす。
 そして、今まで進出していなかった鳥取県、島根県、福井県、高知県、秋田県の5県に対しても「来年までには出店するつもりだ」と意気込む。
 5月時点で、50から8へと減っていた今年度の新規出店は、25に再び上方修正された。なにより、その中身はがらりと変わり、未進出県への出店が増えたのだ。ワタミにとって、未進出県への出店は、その地域の顧客の声に応えるという意味があるが、別のメリットもある。同社は、ダイレクトフランチャイズシステム(DFC)という独立制度を用意し、一定の基準を満たした社員が独立することを促している。しかし、例えば、沖縄県出身の社員が、「地元に戻って独立したい」と言った際に、すでに沖縄県に進出していなければ、物流などのバックアップの面で難しかった。「1店でもその地域に進出していれば、DFCを利用してその地域に出店したいという社員の要望が実現可能になる」。つまり、来年には全国どこででも社員が独立できる素地が出来上がるのだ。震災の影響にもめげずに、山形店を出店したことが、全国制覇の大きな原動力となった。