「酒税の問題で政府に意見を言いたいのだが、民主党政権に知り
合いがいないので困っている」。先日、ある大手酒造会社の役員と
会ったとき、こんな話を聞きました。民主党との接点がなく、産業
界の要望をどう伝えていいか分からないのは、多くの経営者に共通
する悩みのようです。

 これまでは経団連を頂点とする業界団体が、企業の要望を吸い上
げ、自民党の族議員を通じて政府に伝えていました。自民党政権は
こうした要望に応えて、企業活動を後押しすることで企業業績を好
転させ、雇用や賃金を増やして、間接的に家庭に恩恵を及ぼす考え
方でした。

 政策立案にあたって、企業から要望を吸い上げるのは、自然の流
れだったわけです。ところが政権交代によって、企業の声を政策に
反映させることが難しくなっています。

 民主党政権は「生活者重視」を政策の重点に掲げ、子ども手当の
創設など、家庭に直接お金がわたる方法を検討しています。これに
よって、個人消費を喚起するという考え方です。

 消費関連の小売業や外食産業にはプラスになるでしょうが、一方
で最低賃金の引き上げなどで、企業の人件費負担は増します。今年
末の税制改正でも、租税特別措置などによる企業活動への後押しが
縮小するのは、避けられない情勢です。

 恐らく当面、企業と政府とのパイプが細い状態は続くでしょう。
そうすると「業界団体の存在価値はない」という声が高まると予想
されます。

 業界によっては、複数の団体が並立する例も珍しくありません。
元々は、縦割りの行政や族議員のシステムに合わせて設けられたも
のです。政権交代によって、業界団体の見直し、再編が起こる可能
性は高いと思います。
                 (日経MJ 竹之内氏より)