「うちは薄利多売のビジネス」と原田泳幸CEOは断言する。それをマクドナルドが世に知らしめたのは、210円だったハンバーガーを100円に値下げした1994年のことだ。この思い切った値下げによって、販売数が一挙に20倍も増えたという。

 円グラフ(下部参照)の左側をご覧いただきたい。94年当時、210円で売られていたハンバーガーのコスト・利益の内訳である。原材料費57.5円、社員人件費40.7円、店舗賃借料21.0円、その他販売管理費66.6円などコスト計197.1円に対し、営業利益はわずか12.9円だ。110円も値下げして、儲けはどこから出てくるのか。その秘密は、固定費と変動費にある。
 変動費とは、肉代・パン代といった売り上げに比例して動くコストのこと。固定費とは人件費・店舗賃借料など、必ず発生する決まった額のコストのことだ。
 この図から、ハンバーガーは、固定費率が高く、変動費率の低い商品だということがわかる。値下げをしても儲けを出すためには、2つの条件が同時に必要となる。まず、先ほどの「商品の変動比率が低い」こと。そして、「値下げによって、販売数量が大幅に増加する」ことだ。

 実は、マクドナルドは全国展開の前に、89年に仙台市で、20円引きの190円でトライアル値下げを行ったことがある。このとき、ほとんど販売数量は変わらなかったという。20円の値下げに対し、当時の消費者は見向きもしなかったのである。そこで、94年の場合では、全国展開として思い切って110円の値下げを実施したのだ。
 100円という、半額以下の価格には、さすがに消費者が敏感に反応し、販売数量が爆発的に増加した。1個当たりの固定費が、人件費2.3円、販管費3.7円など大幅に圧縮されたのだ。それが図の右の円グラフだ。
 この結果、1個当たりの営業利益が12.9円から34.7円までなんと2.7倍に増加したのである。

 この仕組みこそ、売れば売るほど1個当たり固定費(固定費÷販売数量)が少なくなり、利益が上がるマクドナルドの薄利多売ビジネスの正体だ。
 1個当たりの販売価格がたとえ下がったとしても、大量に売れればその分、利益が大幅に拡大することになる。だから、原田CEOは、徹底的に客数の増大にこだわるのだ。客数が増えれば「100円マック」に加えて、ほかの商品を一緒に買ってくれる機会増につながる。
「10人から10円ずつもらうのではなく、100人から1円ずつもらうのが、うちのビジネスのあり方。年間、延べ14億人のお客様がマクドナルドに来店するが、1人から1円ずつ利益が増えれば、年間14億円の増益になる。1円の差がビジネスを大きく左右する、それが薄利多売の強みでもあり怖さです。1円の価値と14億円のスケール感を、同じように実感することができて、はじめて経営しているといえるのです」(原田CEO)